名古屋市
企業を支えるビジネス環境と事業メリット
名古屋ビジネス進出セミナー

企業を支えるビジネス環境と事業メリット

名古屋市は2024年12月13日、東京・大手町の日経ホールで日本経済新聞社イベント・企画ユニットと共催で「名古屋ビジネス進出セミナー・企業を支えるビジネス環境と事業メリット」を開催した。多彩な出演者が名古屋エリアの魅力を語り、就任したばかりの広沢一郎・名古屋市長も登壇し、ビジネス拠点としての名古屋の優位性を議論した。

「住んでよし、働いてよし」

名古屋市長
広沢 一郎

セミナーには、2024年11⽉に就任したばかりの広沢⼀郎名古屋市⻑も駆けつけ挨拶を⾏った。「名古屋は新幹線、空港、高速道路が交わるアクセスの良さ、そして自動車や航空産業を中心とした確かな技術がミックスして大きなポテンシャルを有した地区だ。東京と比べて名古屋は『まだお買い得な地区』と言える」とアピール。自身が起業した経験も踏まえ、「カリフォルニアのスタートアップ環境のように、仕事をしてから1時間くらいでマリンスポーツを楽しめるのも名古屋の魅力」とし「住んでよし、働いてよし」と名古屋へのビジネス進出を促した。

広沢 一郎
広沢 一郎

名古屋市プレゼンテーション

名古屋市副市長
中田 英雄

セミナーの初めには名古屋市の中田英雄・副市長が登壇。市が現在置かれているポジションを説明しその将来性をプレゼンテーションした。名古屋市を含む愛知県は製造品出荷額45年連続日本一を記録する日本最大のものづくりの街。貿易の総取扱量も22年連続で日本一だ。中田副市長は名古屋のメリットを4点に整理する。

一つ目のメリットは地理的に「日本の中心である」という点。将来リニア中央新幹線が開業すれば東京まで40分でつながる。「名古屋を起点に2時間以内に交流人口7000万人を擁するスーパー・メガリージョンが誕生する。東京、大阪の中央に位置する名古屋の利便性はますます高まる」と話す。

二つ目の特徴はビジネス環境だ。名古屋はものづくりの街だが、それを支える卸売・小売業の比率も高く、製造業以外の企業にもビジネスの素地が広がっている。名古屋駅周辺ではすでに2005年ごろからビル開発が続く。「高層ビルが立ち並ぶ様子は名古屋摩天楼と呼ばれている。10年でオフィス面積は30%増加した。空室率も5%以下で新たな開発も計画中」だという。

三つ目の特徴は暮らしやすさだ。「進出企業にとっては人材確保が重要。街が楽しい、住みやすい、子育てしやすいという環境は大事だ」。名古屋は通勤時間も短く、家賃も東京の半分程度。特に子育て環境については11年連続で待機児童ゼロ、医療費は18歳まで無料など、進出企業で働く社員にとってもメリットは大きい。

最後の特徴は豊富な人材だ。研究開発力の高い大学なども多く森記念財団の研究開発評価で名古屋市は全国1位だ。「地元で就職したいという学生が多い」という。

中田 英雄
中田 英雄

「名古屋市の経済や産業は市内だけで成り立っているのはなく、半径100キロ圏内に含まれる岐阜県岐阜市や三重県四日市市などを含め人口1000万人を擁する『グレーター・ナゴヤ』として周辺と一体となって発展していく」と話し、現在の圏域の中心、そしてリニア開通後に誕生する広域都市圏の中心というポジションの優位性を強調し企業への進出を呼び掛けた。

基調講演

「日本企業の置かれているビジネス環境」

早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授
入山 章栄 氏

基調講演には早稲田大学大学院の入山章栄教授が登壇。これからの日本のビジネス環境を「IoTによるものづくり復権の時代」ととらえ、その中で製造業の盛んな名古屋のとるべき指針を語った。

「これからは第二次デジタル競争の時代。IoTでデジタルが『もの』につながる時代だ。最初のデジタル競争ではスマホのシェアが奪えず日本の市場は縮小した。スマホは一人一台持っても世界で80億台だが、『もの』は無数にある。建機や工作機械、厨房機器など日本のものづくりの技術が生かせるジャンルでデジタル化を進めていけば日本はビッグチャンスを迎える」と読み解く。さらに「IoH(インターネットオブヒューマン)も進む。サービス業とデジタルがつながっていく。日本の『おもてなし』の精神と相まって飲食業や接客業ではすでに成果が出始めている」とする。

こうした状況下で、世界屈指のものづくり地域であるグレーター・ナゴヤは「世界のIoT拠点」になるべきだとする。そのためには「ものづくり+更なる集積+知の探索」が必要だと説く。日本の人口が減少していく中、将来は都市に人口が集中していく。その中で「国際的な競争力を持ちうる都市は東京、福岡、京都、そして名古屋だ」とし、「『更なる集積』を実現するにはエアバスの本社があるフランス・トゥルーズやBMWのあるドイツ・ミュンヘンのように、名古屋も大企業の周辺にスタートアップなどの関連産業を集積させる仕組みを作るべき」とアドバイスを送る。

入山 章栄 氏
入山 章栄 氏

もう一方の要素である「知の探索」については「日本の企業は目の前でもうかりそうなことを深堀りして磨き上げる『知の進化』は得意だが、遠くを見据えて幅広い物事を組み合わせて試してみる『知の探索』は苦手。これではイノベーションは起こりにくい。変化の激しい時代には探索と進化を同時に行う『両利きの経営』が必要だ」とし、「優秀なイノベーションを起こす経営者はとにかく移動する。名古屋の人も世界に飛び出すべきだし、海外の人材や企業を積極的に呼び込むべき」とした。

最後に入山氏はリニア開通について触れ「都市がつながると引力が強い方に吸い取られるリスクもある」が、「ものづくりの工場は東京には作れない。名古屋は工場の良さを際立てる必要がある」とし「東京を見るな。名古屋のものづくりは世界で勝てる」とエールを送った。

パネルディスカッション

「名古屋のビジネス環境と優位性」

パネリスト
名古屋商工会議所副会頭/名古屋鉄道代表取締役社長
髙﨑 裕樹 氏
中部経済連合会会長/中部電力相談役
水野 明久 氏
ボーイング ジャパン社長
エリック・ジョン 氏
なごのキャンパス 企画運営プロデューサー/LEO代表取締役CEO
粟生 万琴 氏
モデレーター
日経CNBCキャスター
改野 由佳 氏

セミナーの後半では「名古屋のビジネス環境と優位性」についてパネルディスカッションが行われた。財界からは名古屋鉄道社長で名古屋商工会議所副会頭を務める髙﨑裕樹氏と中部電力相談役で中部経済連合会(中経連)会長の水野明久氏が登壇。新たに名古屋に進出したボーイング ジャパン社長のエリック・ジョン氏と「なごのキャンパス」でスタートアップ支援に取り組むLEOのCEOの粟生万琴氏も加わった。自身もテレビ愛知でアナウンサーを務めたキャリアを持つ改野由佳氏がモデレーターとして名古屋の優位性を話しあった。

髙﨑⽒は地元鉄道会社の⽴場も踏まえ、まちづくりの将来について意⾒を述べた。名古屋商⼯会議所での活動で広島県や札幌市と意⾒交換する中、「名古屋は⽴地や経済⼒には恵まれているが⼈を惹きつける⼒がまだ⼗分でない」と再認識したという。名古屋鉄道では市の中⼼部である名古屋駅周辺の⼤規模再開発をスタートさせた。「駅周辺の地権者との共同プロジェクトで、⽇本でも有数の規模の再開発になる。 2030年代の開業を⽬指して、準備を進めているところである。リニアで東京とつながるとここが広域⾸都圏の⻄の⽞関⼝になる。⼤規模なオフィスフロアに拠点を構えれば、企業の優位性も高まる」と展望を語る。

名古屋商工会議所が都市計画の指針として策定した『名古屋まちづくりビジョン2030』ではクリエーティブ人材の集積も目指している。名古屋の人材の気質として「真面目な技術系、理科系の人材が非常に豊富で世界をけん引する企業を生み出したベンチャーマインドが風土として根付いている」とし、さらにクリエーティブな人材を呼び込むために「広い道路などの公共空間を生かしたサードプレイスの創出やオープンスペースの活用などで魅力的な都市づくりを進めていく」と話した。

髙﨑 裕樹 氏
髙﨑 裕樹 氏

水野氏は名古屋地域でものづくりが盛んな背景として「江戸時代から続く『からくり』に代表される木工の文化を受け継ぐ匠の技術が、その後、明治、大正、昭和初期に渡って様々な産業を興してきた」とし「道路、鉄道、港湾、国際空港など産業を支える交通インフラが整備され、豊富な水資源と相まって製造業が栄えてきた」とその歴史を振り返る。名古屋を含む広域経済団体である中経連の視点からは「名古屋市を中心に点在する人口10万人規模の都市に航空宇宙や工作機械、繊維、農業など、製造業を含めて幅広い産業の本社や研究機関が点在している。生産現場と都市が近い点や、周辺地域の約50の大学から人が集まる『人材プール』としての機能が企業にとってメリットだ」と語る。

今後の変化については「産学官の連携を加速させ産業の進化と多様化を実現する」とし中部圏の大学と中経連とが連携してカーボンニュートラル実現に向けてのシンポジウムを開催したことなどを示した。さらにリニア開業後を見据え「東京一極集中を是正する多極分散のモデル都市」にしたいと話す。

さらに今後進出を期待する業種として「情報通信分野」と「製造業を支える専門的なサービス業、コンサルティング、マーケティング分野」を挙げた。こうした企業の集積で若者を惹きつけ新しいアイデアや高付加価値な産業を生み出していく狙いだ。

水野 明久 氏
水野 明久 氏

ボーイング ジャパンは24年4月に世界で12番目となる研究開発センターを名古屋市に開所した。社長のエリック・ジョン氏は名古屋を選んだ理由として「名古屋は日本の優れた航空宇宙産業及び製造業の中心地でありボーイングにとって長年にわたって極めて重要なサプライヤーが拠点を構えている土地だ」と話した。また愛知県はトヨタ自動車の発祥の地でもあり、ボーイングは同社の生産方式のひとつである「カイゼン」を米国の製造現場に取り入れていることもその一因として紹介した。さらに名古屋大学との連携し「航空宇宙人材の育成などさまざまなプロジェクトを共同で開催している。愛知県全体を見ても、非常に高度な技術を有した人材プールだ」と人材面でのメリットを挙げた。

日本市場への期待を問われると、「アメリカを除くとボーイングにとって最も強力なサプライチェーンパートナーが日本だ。この地域のみならず、全世界におけるパートナーシップの礎を成す。日米関係のさらなる発展を鑑み、日本とボーイングの協力関係がさらに深化することを確信している」と話した。

最後に「ボーイングが名古屋に製造拠点を置く素晴らしいサプライヤーと連携するように、多くのグローバル企業が名古屋に注目している。名古屋は世界市場へのゲートウェイだ」と名古屋へ進出を検討する企業へメッセージを送った。

エリック・ジョン 氏
エリック・ジョン 氏

名古屋駅から徒歩8分ほどの小学校跡地で「なごのキャンパス」というインキュベーション施設を運営する粟生氏は「スタートアップの母」と呼ばれる存在だ。名古屋には現在、粟生氏の「なごのキャンパス」に加え、中経連と名古屋市が設立した「ナゴヤイノベーターズガレージ」、そして24年10月にオープンしたアジア最大級のイノベーション拠点「STASION Ai」がある。2020年ごろからスタートアップが盛り上がってきた背景として「愛知県、名古屋市、浜松市、中経連、名古屋大学と一緒になってスタートアップのエコシステム作りに注力してきた。地域の学生はすべてアントレプレナーシップ教育を受ける土壌が整っている」と語った。さらに名古屋市では小中学生の希望者には起業家教育を無料で行っており「ロングテールで挑戦する人を増やす教育に力を入れている」と特長を語った。

名古屋のビジネス環境については「事業の成功には研究開発などを行う知能である『IQ』と感情指数とも呼ばれる『EQ』の両立が欠かせない。名古屋の美しく楽しい環境は「心の知能指数=EQ」を高められる環境だ。18歳までの医療費無料や高度な高齢者向けの医療施設も多く社員も家族も安心して暮らせる。名古屋に進出すれば社員のウェルビーイング実現につながるはずだ」と進出検討企業に呼びかけた。

粟生 万琴 氏
粟生 万琴 氏
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